中東情勢の緊迫化を背景に、原油や航空燃料の価格が上昇し、航空輸送費も大きく変動しています。その要因の一つとなっているのが「燃油サーチャージ(Fuel Surcharge:FSC)」です。
国際航空貨物における燃油サーチャージとは、航空機の燃料価格の変動を輸送費に反映するため、通常の航空運賃とは別に設定される追加料金です。
日本発の国際航空貨物では、燃油サーチャージを決める際の代表的な指標として「シンガポール・ケロシン価格」が使われています。
今回は、日本発の国際航空貨物を中心に、燃油サーチャージがどのような仕組みで決まるのか、シンガポール・ケロシン価格とどのような関係があるのかについて、最近の市場動向も交えながら分かりやすく解説します。
燃油サーチャージとは?
燃油サーチャージ(Fuel Surcharge)は、原油価格の上昇などによって航空会社の燃料費が増加した際、その一部を補うために、通常の航空運賃とは別に設定される料金です。
航空機の運航には大量のジェット燃料が必要です。燃料価格が急激に上昇すると、航空会社の運航コストも大きく増加します。
しかし、基本となる航空運賃を燃料価格の変動に合わせて頻繁に変更すると、料金体系が複雑になってしまいます。
そこで、航空運賃とは別に燃油サーチャージを設定し、燃料価格の変動を一定のルールに基づいて輸送費へ反映する仕組みが採用されています。
シンガポール・ケロシンとは?
シンガポール・ケロシンとは、シンガポール市場で取引される航空機用ジェット燃料(ケロシン)の価格指標です。
シンガポールは、アジアにおける石油製品の精製・取引拠点の一つです。そのため、シンガポール市場のジェット燃料価格は、アジア地域における航空燃料価格の代表的な指標として広く使用されています。
日本発の国際航空貨物についても、多くの航空会社が燃油サーチャージを決める際の基準として、シンガポール・ケロシンの平均価格を採用しています。
シンガポール・ケロシンはなぜ動く?
シンガポール・ケロシン価格は、原油価格だけでなく、航空需要や製油所の稼働状況、産油国からの供給、タンカー輸送など、さまざまな要因によって変動します。
近年では、コロナ禍やロシアによるウクライナ侵攻、中東情勢の緊迫化などを背景に、大きく価格が動く場面がみられました。

2020年のコロナ禍では、各国の渡航制限や国際線の大幅な減便によって航空燃料の需要が急減し、シンガポール・ケロシン価格も一時大きく下落しました。その後、経済活動の再開や航空需要の回復に伴って価格は上昇に転じました。
さらに2022年には、ロシアによるウクライナ侵攻を受け、原油や石油製品の供給不安が拡大し、航空燃料価格も大きく上昇しました。
2023年のイスラエル・ハマス紛争開始直後には、紛争が周辺の産油地域へ拡大することへの警戒から、原油価格が一時上昇する場面もみられました。
そして2026年には、中東情勢のさらなる悪化とホルムズ海峡をめぐる輸送不安を背景に、シンガポール・ケロシン価格が急騰しました。
このように、シンガポール・ケロシン価格は単純な原油価格の動きだけでなく、航空需要の増減や産油国の情勢、主要輸送ルートの混乱といった世界情勢にも大きく左右されます。
燃油サーチャージはどのように決まる?
日本発の国際航空貨物における燃油サーチャージ(FSC)は、航空会社があらかじめ定め、国土交通省への申請・認可など必要な手続きを経た徴収ルールに基づいて適用されます。
どの期間の燃料価格を参照するか、どの価格帯でいくら徴収するか、いつ料金を改定するかなどの詳細なルールは航空会社ごとに異なります。
そのうえで、多くの航空会社ではシンガポール・ケロシン価格を代表的な指標として使用し、一定期間の平均価格をあらかじめ設定した料金テーブルに当てはめて、適用する燃油サーチャージを決定しています。
また、燃油サーチャージの変更にも所定の手続きが必要となるため、燃料価格が急激に変動した場合でも、その動きが直ちに燃油サーチャージへ反映されるとは限りません。
基本的な流れは、次のとおりです。
1.シンガポール・ケロシンの平均価格を確認する
航空会社は、あらかじめ定めた期間のシンガポール・ケロシン価格を確認します。
例えば、適用開始月の前月や、そのさらに前の月など、一定期間の平均価格が使用されます。
毎日の価格をそのまま料金に反映するのではなく、一定期間の平均を取ることで、一時的な価格の上昇や下落による影響を抑えています。
2.航空会社の基準表に当てはめる
航空会社は、シンガポール・ケロシンの価格帯ごとに、燃油サーチャージの料金を定めた基準表を設けています。
例えば、シンガポール・ケロシンの平均価格が次のような水準だった場合、それぞれの価格帯に対応した燃油サーチャージが適用されます。
ANA Cargoの参考例: 2026年2月 シンガポール・ケロシン平均価格 88.91米ドル/バレル
(出典:ANA Cargo 「2026年4月1日以降の日本発国際線貨物「燃油特別付加運賃」(燃油サーチャージ)適用額について)
⇒2026年4月に適用される燃油サーチャージは下記同社基準表に基づき決定)
つまり、燃料価格が1米ドル上昇するたびに料金が変わるのではなく、一定の価格帯を超えると、次の料金区分へ切り替わる仕組みです。
3.路線ごとの金額が適用される
燃油サーチャージは、すべての輸送先で同じ金額になるとは限りません。
一般的には、輸送距離などに応じて、次のような路線区分が設けられています。
- 韓国などの近距離路線
- 中国、香港、台湾などの短・中距離路線
- 東南アジアなどの中距離路線
- 北米、欧州などの長距離路線
長距離路線ほど使用する燃料が多くなるため、燃油サーチャージも高くなる傾向があります。
また、同じ仕向地であっても、利用する航空会社によって路線区分や適用額が異なる場合があります。
原油価格が下がっても、すぐに安くならないのはなぜ?
ニュースなどで原油価格の下落が報じられているにもかかわらず、航空貨物の燃油サーチャージがすぐに下がらないことがあります。
主な理由は、料金の算定に過去の一定期間の平均価格が使用されるためです。
例えば、ある月の燃油サーチャージを、その前月や前々月のシンガポール・ケロシン平均価格に基づいて決定する場合、現在の燃料価格が下落していても、その影響が料金に反映されるまでには一定の時間差が生じます。
反対に、現在の燃料価格が急騰していても、直ちに燃油サーチャージへ反映されない場合があります。
そのため、シンガポール・ケロシンの市況と実際に適用される燃油サーチャージは、必ずしも同じタイミングで上下するわけではありません。
為替相場も影響する?
航空燃料は国際市場で米ドルを基準に取引されるため、一般的には円安・円高といった為替変動も航空会社の燃料コストに影響します。
ただし、日本発の航空貨物に適用される燃油サーチャージ(FSC)は、円安・円高による直接的な影響は限定的です。
日本発のFSCは、米ドル建てのシンガポール・ケロシン価格などを基準として、航空会社があらかじめ設定した円建ての料金テーブルに基づいて適用されます。
そのため、円安が進んだからといって、それだけを理由に現在適用されているFSCがすぐに上昇するわけではありません。
一方で、航空会社が料金テーブルや算定方法を見直す際には、燃料価格だけでなく為替変動などのコスト環境が間接的に影響する可能性があります。
航空会社によって金額が違うのはなぜ?
同じシンガポール・ケロシンを指標としていても、航空会社によって燃油サーチャージが異なることがあります。
主な理由として、次のような違いが挙げられます。
- 参照する燃料価格の期間
- 料金を改定する頻度
- 路線の区分
- 価格帯ごとの基準表
- 為替相場の反映方法
- 航空会社の燃料調達方法
- 政府認可や各国の制度
- 市場環境を踏まえた特例措置
例えば、月単位で改定する航空会社もあれば、一定期間料金を固定する航空会社もあります。
また、急激な燃料価格の変動時には、通常の料金表をそのまま適用せず、激変緩和措置などの特例が設けられる場合もあります。2026年には、中東情勢を踏まえた政府の緊急的激変緩和措置による航空機燃料への補助を受け、一部の航空会社は通常より低い価格帯のテーブルを特例として適用しています。
このため、「シンガポール・ケロシンが同じ価格なら、どの航空会社でも同じ燃油サーチャージになる」というわけではありません。
海外発の燃油サーチャージはどう決まる?
ここまで日本発の国際航空貨物を中心に説明してきましたが、燃油サーチャージの仕組みは世界共通ではありません。海外発の貨物では、出発国・地域や航空会社によって、参照する指標や料金の設定方法が異なります。
そのため、航空輸送を検討する際は、過去の料金だけで予算を組むのではなく、出荷時点の最新料金を確認することが大切です。
米国の場合
米国では、米国メキシコ湾岸(U.S. Gulf Coast:USGC)のジェット燃料価格を指標として燃油サーチャージを設定するケースがあります。例えば一部の国際輸送事業者では、米国エネルギー情報局(EIA)が公表するUSGCのケロシンタイプ・ジェット燃料価格をもとに、燃油サーチャージを週単位で見直しています。
欧州の場合
欧州では航空会社によって仕組みは異なります。一部の航空会社では、燃料費だけでなく、為替や空港関連費用などの外部コストをまとめた「Airfreight Surcharge」を設定しています。さらに、2025年からEUでSAF(持続可能な航空燃料)の最低供給比率が導入されており、航空会社によっては、これに伴う追加コストもサーチャージの算定要素に加えています。
香港の場合
2025年1月より香港では航空貨物の燃油サーチャージ制度が自由化され、航空会社が独自に設定できるようになりました。
変動する燃油サーチャージを踏まえ、より良い輸送方法を
航空貨物の燃油サーチャージは、世界共通の指標やルールで決まっているわけではありません。 日本発ではシンガポール・ケロシンが代表的な指標となっていますが、海外発では、出発地や航空会社によって参照する燃料価格や料金の考え方が異なります。
燃油サーチャージは、燃料市況や国際情勢の影響を受けて変動し、その算定方法や改定時期も国・地域、航空会社によって異なります。そのため、航空輸送のコストを考える際には、航空運賃だけでなく、出荷時点で適用される燃油サーチャージを含めた総額で確認することが重要です。
また、利用する航空会社や輸送ルート、出荷スケジュールなどによって、輸送費やリードタイムは変わります。
当社商船三井ロジスティクスでは、各航空会社の運賃や燃油サーチャージ、運航状況などを確認しながら、貨物の特性や納期、コストに応じた航空会社・輸送ルートをご提案しています。
燃料価格が大きく動く局面では、見積取得時と実際の出荷時で料金が変わることもあります。航空輸送をご検討の際は、最新の料金状況も含めてお気軽にご相談ください。
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